ストキャスティクスやRCI・RSIなどに代表される、オシレーターと呼ばれるインジケータ。一般的には、マーケットの買われ過ぎや売られ過ぎを参照する指標として知られています。
しかしながら、これらのオシレーターの本質を深く考えると、今買われ過ぎているから売る・売られ過ぎているから買うといったトレードは、間違ってもできないことが分かります。では、どのようにトレードに応用すれば良いのでしょうか。
1.ストキャスティクスは何を表現しているのか?
オシレーターと呼ばれるインジケータは色々ありますが、ここではその中でも代表的なストキャスティクスを例に考えてみます。RCIやRSIであっても、本質的な部分は全く同じと考えてください。
ストキャスティクスを解説した書籍やサイトを見ると、必ずと言っていいほど出てくるのが「買われ過ぎ・売られ過ぎ」という表現です。基本的な活用法として、80以上になったら買われ過ぎだから売りましょう!20以下なら売られ過ぎなので買いましょう!という解説がほとんどです。
しかしながら、この解説を鵜呑みにしたトレードで、損失を膨らませてしまった方も多いはずです。次のチャートを見てください。
*引用文献:著書「維新流トレード術」より
上図は、20期間の単純移動平均線と同期間のストキャスティクスを表示させた、ドル/円の実チャートです。赤枠で囲った部分で、ストキャスが80以上の高い位置で張り付いています。
ここで図の(1)のようなポイントで、80以上を示し始めているから買われ過ぎだ!売っていこう!というトレードをしてしまうと、どんどん損失が膨らんでしまいます。ストキャスは80以上なのにも関わらず、レートはグングン上昇しています。
また、今度は(2)のようなポイントで、20以下になったから売られ過ぎだ!買っていこう!と思っても、レートは全く上昇する気配を見せていないことが分かります。この段階ではまだ移動平均線は下を向いており、実際にこの先レートは更に下落していく展開となりました。
このように、「買われ過ぎ・売られ過ぎ」というストキャスティクスの捉え方は全く使えないことが分かります。80以上・20以下という目安も、株などよりもトレンドを築きやすいFXではほとんど意味を成しません。
1-1.相場のその方向への強気度を表現している
上記のように、ストキャスティクスはレートの買われ過ぎ・売られ過ぎを表すものではなく、現在のレートが相場の今の方向に相対的にどのくらい強気なのかを表現していると言えます。
ストキャスティクスというのは、例えば上図のように20期間のものであれば、「その20期間の高値・安値に対して今の終値がどの位置にあるのか。というのを、0%〜100%で表現したもの」です。計算式を見てもよく分かりませんが、言葉で表現するとこのようになります。
過去20本のローソク足から読み取れる高値・安値に対して、今は相対的に強いポジションにあるのか・弱いポジションにあるのか。ということを、表現しているだけのインジケータです。
先程の図のように、ストキャスティクスが上にずっと張り付いた状態というのは、過去のレートに比べて相対的に今はずっと強いということを表現していて、それは言い換えると「今はトレンドが力強く継続している局面」ということです。
この局面を、「買われ過ぎ」状態と認識するのとは雲泥の違いがあります。もし、上図の赤枠のような局面で買いポジションを持っていたとすれば、「現状は依然として強い上昇トレンド継続状態で、まだまだポジションを保有していて良い局面」と認識することができます。
1-2.相場の方向やトレンドの転換は決して教えてくれない
ストキャスティクスの解説で、買われ過ぎ・売られ過ぎと並んでよく出てくるのが、「トレンド転換のサインに使う」というものです。オシレーターというのは、実際の値動きよりも早めに反転し始めるという特徴があるために、トレンド転換のサインにするという考え方です。
しかしながら、先述したようにストキャスティクスは、相場の方向の強気度を表現しているだけであって、トレンドの転換や方向自体は表現していません。下図を見てください。
*引用文献:著書「維新流トレード術」より
上昇トレンド中の局面で、(1)でストキャスティクスが反転下落し始めてきました。ここでトレンド転換のサイン!と考えて売りエントリーすると、どうなるでしょう?
ストキャスティクスの反転下落に反して、レートはグングン上昇しています。この例からも分かるように、ストキャスティクスはトレンド転換のサインには全く使えず、相場の方向も示さないということが分かります。
加えて、相場がレンジのときであれば、トレンド転換のサインとして使えるという主張もあります。しかしながら、今動いている相場をレンジと判断するにはどうすれば良いのでしょうか。
過去チャートを見れば、誰でもレンジ状態であるというのは分かりますが、次の瞬間動きだして終了するかもしれないその状態を、今はレンジだから反転サインとしてストキャスティクスを使おう!なんてできるでしょうか。少なくとも、私にはそんなトレードは怖くてできません。
2.ストキャスティクスが必要になる真の理由とは
トレードするにはまず、今相場が向かおうとしている方向・トレンドを知る必要があります。それは移動平均線や、高安値の切り上げ・切り下げであるダウなどで確認することが可能です。
(*ダウについては、記事:テクニカル分析の元祖ダウ理論!トレンドの継続・転換がまるわかり!?を、確認してください。)
ただ方向が分かっても、それが今どの位強気なものなのかということまでは読み取ることができません。その方向にどのくらい強気で今伸びようとしているのか、それを視覚的に分かり易く見せてくれるのがストキャスティクスだと言えます。下記の先ほどのチャートを、もう一度見てください。
移動平均線もしっかり上を向いて、一目で上昇トレンド中と認識できるチャートです。例えば、この上昇トレンドに乗って買いポジションを保有していたとして、先程と同じ図の(1)の局面を迎えたとすればどうでしょう?
ずっと高い位置に張り付いていたストキャスティクスが、下降し始めています。ということは、ずっと強気に上昇トレンドを継続してきた相場が、少し弱気になってきたと判断できます。
先述したように、ストキャスティクスが反転下降してきたからといって、この先のトレンド変換になるということではありません。あくまで、上昇に対して弱気になってきたと認識できるだけです。
この(1)の局面では、小さく高値を切り下げて安値を更新しながら(ダウ)移動平均線も割り込んで、かつストキャスティクスによって相場が弱気になってきたことも分かるので、一旦決済しようと判断しても良い局面と言えます。
この(1)の局面で、先述の「ストキャスティクス反転をトレンド転換と捉えて売りを仕掛ける」という間違った考え方とは、全く違ったチャートの景色になります。
また、上図の(1)より前の(A)でも、同じような局面を迎えており、同じ考え方ができます。(A)で一旦決済し、再度上昇してくれば新たなエントリーチャンスを探そう!というトレードです。
2-1.ストキャスティクスを利用したエントリーから決済まで
それでは同じチャートを使って、先程の図の(1)以降のトレードを考えてみます。下図をみてください。
先程の(1)以降、レートはそのまま下げることなく、ほぼ同値(僅かに切上げ)で安値をつけてダブルボトムを形成して再度上昇、ネックラインもしっかり超えてきています。
(*ダブルボトムやネックラインについては、記事:トレンド転換のチャートパターン。ダブルトップとヘッドアンドショルダーズの正体知ってる!?を、確認してください。)
このネックライン超えとなる(B)の局面は、ひとつのエントリーポイントです。上向きの移動平均線より上にレートが位置しながら、小さく安値を切上げた後のネックライン超えです。この時、ストキャスティクスもしっかり上向きで強気であることが、ひとつのエントリー根拠になってくれています。
この(B)の直前で、僅かにネックラインを超えてきていますが、ここではまだ移動平均線も横ばい・ストキャスティクスからも相場はまだ弱気であるため、ラインを抜けても再度一旦下げて、小さなだましになっていることが分かると思います。
その後(C)の局面で、陰線や長い上ヒゲが出現して下げる気配を見せ始めています。しかしながら、まだしっかり上向きの移動平均線・トレンドラインより上に位置し、ストキャスティクスも高い位置に張り付いてまだまだ強気であると認識できるため、この局面ではポジションはまだ保有できると判断します。
さらにその後(D)では、小さく高値を切り下げながら移動平均線を割り込み、移動平均線自体も横ばい・ストキャスティクスからも相場が弱気になってきたことが分かるため、一旦決済しても良いと判断できるポイントになります。
ただ、未だ上昇トレンドラインより上にレートが位置しているので、もう少し保有しても良いという考え方もあります。そのときは、一旦(D)で半分だけ決済して、残りをもう少し伸ばすというトレードも可能です。
しかしながら、(E)の局面にまで来ると、レートは高値を切り下げながら移動平均線もトレンドラインも割って、移動平均線自体も下向きになってきています。ストキャスティクスも下げているため、相場は弱気になっていることが分かり、ここは一旦決済しておくべきポイントだと判断できます。
またこの局面では、「レートは高値を更新しているのにも関わらずストキャスティクスは高値を切り下げている」というダイバージェンスも発生しているため、より相場が弱気になってきたことが分かる局面です。
*ダイバージェンスについては、記事:ダイバージェンスって何を教えてくれるの!?トレンド転換のサインじゃないんだって!!を確認してください。
*ストキャスティクスをトレンドフォローへ応用する基本概念は、著書「維新流トレード術」で解説されている著者独自の概念です。
2-2.ストキャスティクスはあくまで補助的ツール
トレードするに当たって、最重要視するべきは実際の値動きであり、ストキャスティクスは補助的な指標であることを忘れてはいけません。
実際の値動きの高安値から算出される計算値を、あくまで視覚的にただ分かり易くしただけのものであって、万能ではないからです。そのため実際に、ストキャスティクスはトレーダーをよくだまします。
上記のように、値動きを軸にした相場の捉え方に、ワンポイントの補助として加えてあげるような意識で丁度良いと思います。
3.まとめ
このように、ストキャスティクスを利用することで、チャートだけでは見えなかった相場の裏の側面を視覚的に捉えることができ、エントリーや決済に応用できることが理解して頂けたのではないでしょうか。
また、よく言われている「買われ過ぎ・売られ過ぎを表す」「トレンド転換のサイン」といったストキャスティクスの解説が、それだけでは全く実トレードでは使えないということも理解して頂けたと思います。
見慣れるまでは分かりにくいインジケータですが、慣れると無意識レベルで上記のような判断ができるようになります。是非、ご自身のトレードに応用して頂ければと思います。
■より実践的な使い方については、記事:ダマシを防ぐオシレーターの使い方!?節目を叩いて反転するストキャスティクス!!も確認してください。